「もっと肘を下げて」「手首はこう」——そうやってフォームを直しても、なぜか力みが取れない。そんな経験はありませんか。
以前の記事では、「力を抜こう」とすること自体が新たな緊張をつくってしまうこと、そしてアレクサンダー・テクニーク(AT)が目指すのは脱力そのものではなく『力みをやめること』だとお伝えしました。今回はその実践編として、具体的に何を観察すればいいのかを考えていきます。
フォームを直しても力みが取れない理由
多くの楽器で、テクニックは「こういう姿勢で」「こういう形で」と教わることが多いと思います。できているかどうかの目安になるので、教える側にとっても学ぶ側にとってもわかりやすいからです。
ただ、演奏フォームそのものは、実はそれほど重要ではありません。
大事なのは『使い方』です。正しく使えていれば、多少フォームが違っていても楽に演奏できますし、逆に見た目のフォームが整っていても、うまく使えていなければ力みは残ります。姿勢や形というのは、正しく使えた『結果』として現れるものであって、目指すべき『目標』ではないのです。
つまり、フォームを外側から直そうとする取り組み方そのものに、限界があるということになります。
動作は「始まる前」から始まっている
では、何を観察すればいいのでしょうか。ヒントは、動作の『入り口』にあります。
たとえばスティックを持つ動作。「スティックを持ったら力んでしまう」という方は少なくありませんが、よく観察してみると、スティックを持つ前からすでに緊張が始まっていることがあります。持つという動作そのものが、すでに力みを含んだ使い方になっているのです。
始まりが整っていれば、その先も楽なまま続けられます。逆に、始まりで力んでいれば、その先どれだけフォームを整えても、力みは残ったままになります。
もうひとつ、試していただきたい観察があります。
腕を前に軽く伸ばしてみてください。伸ばしきると窮屈になるので、力を抜いた状態で。その時、肘の骨(尺骨)はどちらを向いていますか。
次に、肘の骨を意識的に下に向けたまま、同じように腕を伸ばしてみてください。
比べてみると、後者の方が肩まわりに窮屈さを感じる方が多いようです。これは、スティックの振り上げ動作にもそのまま当てはまります。振り上げる時に肘が下を向いていると肩が窮屈になりやすく、エネルギーが肘で止まってしまって楽器まで伝わりにくくなる——そう感じる方が多い、というのが指導の現場での実感です。
一度、鏡や動画で自分の奏法を見てみるのもひとつの手です。見ていて「これは本当に楽なのだろうか」と疑問を感じる映像には、たいていこうした『入り口』の力みが隠れています。
関節の自由度という視点で確認する
もうひとつの観察ポイントは、関節の自由度です。
演奏には力が必要です。力がまったくなければ、スティックを振ることも、ペダルを踏むこともできません。大事なのは、その力を『各関節が固まらず自由な状態』のまま楽器へ伝えられているかどうかです。
必要以上に力を抜こうとする必要もありません。抜きすぎるとかえってバランスを崩し、動きが鈍くなることもあります。目指すのは「力を抜くこと」ではなく、「関節が自由に動ける状態を保ちながら、力を伝えること」です。
この視点で使い方を見直せると、
- コントロールのしやすさ
- ロスの少ないエネルギー伝達
- 動きの軽さ、しなやかさ
といった変化に気づきやすくなります。「あ、今までここを固めてしまっていたんだ」と、それまでの習慣に自覚的になれる方も多いようです。身体への負荷も小さくなるので、腱鞘炎のような故障のリスクを減らすことにもつながります。
フォームではなく、使い方を観察する
見た目に憧れるドラマーがいるなら、その人のフォームを真似るよりも『どう使っているか』を観察してみることをおすすめします。無駄なく、余裕をもって演奏しているように見えるプレイヤーほど、フォームよりも使い方を大切にしていることが多いというのが、指導を通じて感じてきたことです。
次にスティックを持つとき、ひとつだけ観察してみてください。持とうとした瞬間、すでに力が入っていないか。それだけで、これまで見えていなかった習慣に気づくきっかけになるかもしれません。
方法論として答えを示すのではなく、著者自身の気づきを読者が追体験していく一冊です。動作の「入り口」を観察するという視点が、演奏の中でどう活きてくるかをイメージするための手がかりになります。
