音楽・リズム理論

分母が6の拍子記号がある──非合理拍子とはどういうことか

5/8+4/6という拍子記号を見たことがあるでしょうか。分母が6──4でも8でもありません。これが「非合理拍子」です。名前すら浸透していないほどマニアックな記譜法ですが、メトリックモジュレーションを楽譜に落とし込むための実践的なツールとして使われています。仕組みをゼロから解説します。

「5/8+4/6」という拍子記号を楽譜で見たとき、多くの方が同じ疑問を持ちます。「分母が6?そんな拍子があるの?」

実はあります。これが『非合理拍子(Irrational Time Signature)』です。名前すら知らない方がほとんどですが、現代音楽やプログレッシブなジャンルの楽譜では実際に登場する記譜法で、メトリックモジュレーションを楽譜で表現するための道具として使われています。

仕組みは難しくありません。拍子記号の「分母」が何を意味するかをひとつ確認するだけで、謎は解けます。


拍子記号の「分母」は何を表しているか

4/4拍子の「4」は何か。5/8拍子の「8」は何でしょうか。

分母Nは『全音符を何等分した音符が1拍か』を示しています。

  • 分母が4 → 全音符の4分の1の音符(4分音符)が1拍
  • 分母が8 → 全音符の8分の1の音符(8分音符)が1拍
  • 分母が16 → 全音符の16分の1の音符(16分音符)が1拍

だから5/8は「8分音符が5つ」、4/4は「4分音符が4つ」という意味になります。


なぜ分母はいつも2のn乗なのか

通常の拍子記号では、分母は2・4・8・16のいずれかです。これらはすべて『2のn乗』です。

音符の体系そのものが「2等分する」ことの積み重ねで成り立っているからです。

  • 全音符を2等分 → 2分音符
  • 2分音符を2等分 → 4分音符
  • 4分音符を2等分 → 8分音符
  • 8分音符を2等分 → 16分音符

この「2で割り続ける」構造が、西洋音楽の記譜法の根幹にあります。分母が2のn乗に収まるのは、この構造に従っているからです。

逆に言えば、分母が3・5・6・7になる拍子は、この構造に『合理的に収まりません』。だから「非合理拍子」と呼ばれています。英語でも Irrational Time Signature と呼ばれています。


分母が6になるとどういう音符が1拍になるか

では分母が6のとき、1拍の音符はどんな長さでしょうか。

全音符の6分の1──これは『2拍3連の1音』と同じ長さです。

2拍3連とは、2拍(半音符)の長さに3つの音を均等に入れることを指します。この3つのうちの1音分が、ちょうど全音符の6分の1に当たります。

つまり 4/6 拍子とは、『2拍3連の音価を1拍とみなした4拍子』のことです。

通常の記譜では「2拍3連の1音」を直接1拍として書くことはできません。分母に6を使うことで、この拍の感覚を記号として明示できます。


5/8+4/6 の実例

以下の譜例では、5/8拍子と4/6拍子を組み合わせています。

5/8+4/6拍子の例

  • 5/8 → 8分音符が5つ
  • 4/6 → 2拍3連の音価を1拍として4拍

クリックのテンポは変わりません。変わるのは『1拍として使う音符の種類』です。5/8では8分音符を数え、4/6では2拍3連の音価を数えます。このズレが生み出すリズムの感覚は、通常の変拍子とは異なる独特の揺らぎを持ちます。


なぜこんな記譜が必要なのか

非合理拍子は、メトリックモジュレーションを楽譜に落とし込むために使われています。

メトリックモジュレーションとは、別の拍の流れに意識を移すことでテンポが変わったように聴かせるテクニックです。演奏者の感覚の中では拍の基準が変わっても、クリックのBPMは動きません。

このとき「新しい拍の単位を楽譜でどう示すか」が問題になります。非合理拍子はその答えのひとつです。

たとえば4/4拍子の演奏の中で2拍3連フィールに移行するとき、以後のパートを4/6拍子で書けば、「ここから2拍3連の音価が新しい拍になる」という情報を記号として楽譜に残すことができます。テンポ指示や口頭説明に頼らず、拍子記号だけで意図を伝えられます。


Click Modulator で非合理拍子を体感する

頭で理解するだけでなく、実際に耳で聴いてみると感覚がつかみやすくなります。

Click Modulator は、分母に任意の整数を設定できる時間ベースのメトロノームです。4や8だけでなく、3・5・6・7といった非合理な分母にも対応しています。通常のグリッドベースのメトロノームでは再現できない理由は、グリッドが2のn乗を前提に作られているからです。

設定例:

  • セグメント1:5/8・2小節
  • セグメント2:4/6・2小節

この2つをループさせると、8分音符と2拍3連の音価が交互に基準拍として現れる感覚を体感できます。プリカウント機能をオンにすると、切り替わりの1小節前に次の分母のパルスが鳴り始めるため、感覚の移行がよりつかみやすくなります。


まとめ

非合理拍子のポイントは3つです。

  • 分母Nは『全音符のN分の1が1拍』を意味します。Nが2のn乗(2・4・8・16)でなければ「非合理拍子」になります
  • 分母6 = 2拍3連の1音が1拍。4/6拍子は2拍3連の音価を1拍とみなした4拍子です
  • 非合理拍子はメトリックモジュレーションを楽譜で明示するための道具として使われています

Click Modulator のプリカウント機能と組み合わせて、耳から感覚を作っていきましょう。


関連記事

EXITドラムレッスン

記事を読んで、実際に試してみたいと思ったら

知識を身体に落とし込む作業は、一人では限界があります。お気軽にご相談ください。

初回レッスン全額返金保証 / 月謝制なし・好きなペースで